ラチェット方式 ── 一方向にだけ回る開発方式

ラチェットは一方向にだけ回る。戻らない。手を離さずに、回し続けられる。 株式会社IIWAYO.TECHは、業務のためのソフトウェアをAIとともに作り、使われ続ける状態に保つ活動を通じて、よりよい作り方を見つけだそうとしています。その開発方式をラチェット方式と呼びます。

ラチェット方式とは

ラチェットは一方向にだけ回る。戻らない。手を離さずに、回し続けられる。

ソフトウェアを作り直すコストは、ほぼ消えました。この前提の変化のうえに立つ開発方式です。

  • ウォーターフォールは、一方向に落ちる。ラチェットは、一方向に上がる。
  • 現場に出すのは、使う人が「これなら出せる」と言ったものだけ。
  • 出したあとも、月額の中で直り続ける。

なぜラチェットなのか

ラチェットは、のこ歯の歯車(ラチェットホイール)と爪(ポール)でできた機構です。歯が非対称なため、一方向には爪が滑って乗り越え、逆方向には爪が噛んでロックします。ラチェットレンチ、ジャッキ、巻上機に使われる、建設・製造の現場道具そのものです。

ラチェットの機構とラチェット方式の対応
ラチェットの機構ラチェット方式
一方向にだけ回る改善は積み上がる。悪くならない
逆方向は爪が噛んでロックする一度良くなったものを、二度と悪くさせない
戻し動作は空転する。力がいらず、締めた分は減らない作り直しは無料。しかし積み上げたものは失わない
ヘッドをはめ直さず連続で回せる手を離さない。狭い場所でも回し続けられる=伴走
締める/緩めるは、人がツマミで切り替える進む方向を決めるのは顧客。私たちは回す
一段ごとに音が鳴る進んだことが、その都度わかる
ジャッキ少しずつ、確実に、重いものを持ち上げる

戻らないのは自動ではありません。爪という仕組みがあるからです。私たちにとっての爪は、本番検証ゲート、リリースノート、改善要望の台帳です。仕組みがなければ、積み上げたものは必ず落ちます。

4つの価値

仕様書の合意よりも動く現物での合意を

速く出すことよりも出せる状態で出すことを

納品よりも直り続けることを

作って渡すことよりも直せるようにすることを

左記のことがらに価値がないわけではありません。私たちは右記のことがらにより価値をおきます。

仕様書の合意よりも動く現物での合意を

仕様書は、作るのが高かった時代に「作る前に間違いを潰す」ために発明された。作るのが安くなった今、先に作って見てもらうほうが速く、正確で、安い。要件定義をやらないという意味ではない。要件定義の成果物を、紙ではなく動くものにするという意味。

速く出すことよりも出せる状態で出すことを

アジャイルソフトウェア開発宣言が掲げたのは Working software(動くソフトウェア)であって、動かないものを出せとは書かれていない。日本の実務では「速く出す」だけが独り歩きし、作り込み途中のものを現場に出して信用を失う運用が「アジャイル」と呼ばれてきた。私たちは速さを、出す時期ではなく直しの回転数で使う。コンクリートは、養生期間を取らずに型枠を外すと割れる。同じことがシステムでも起きる。

納品よりも直り続けることを

納品は、作る側が手を引く日を決める行為である。私たちは手を引かない。リリースは終点ではなく、直しの回転が現場に届き始める起点にすぎない。

作って渡すことよりも直せるようにすることを

顧客が自分で直せるようになれば、私たちへの依存は減る。それでよい。依存させることで収益を守る構造を作らない。

背後にある8つの原則

  1. 現場に出すのは、使う人が「これなら出せる」と言ったものだけである。 試作品を現場に出さない。
  2. 作り直しに費用はかからない。 だから納得するまで作り直す。
  3. リリース後の直しに追加見積を出さない。 直しは月額に含まれる。
  4. 今の使い方を壊さない。 新しい正しさより、今の運用に合わせる。
  5. 一度に全部を替えない。 1機能ずつ出す。
  6. 現場からの「使えない」は、まず私たちが受ける。 顧客の担当者に背負わせない。
  7. 直し方そのものを渡す。 最後は顧客が自分で直せる状態にする。
  8. 完成を宣言しない。 使われているものに完成はない。

ウォーターフォール・アジャイルとの関係

否定ではありません。アジャイルソフトウェア開発宣言(2001年・米ユタ州スノーバード)が本来言っていたことを、AI駆動開発の環境で実行できる形にしたものと位置づけています。

ウォーターフォール・アジャイル・ラチェット方式の比較
ウォーターフォールアジャイルラチェット方式
前提作るのが高い・変更が高い作るのが高い・変更は避けられない作り直しがほぼ無料
一方向に落ちる小さく回る一方向に上がる
戻り戻れない戻ってやり直す戻さない(爪が止める)
工程ごとに持ち替えるスプリントごとに区切る手を離さない
合意の材料仕様書動くソフトウェア動く現物
現場に出す時期全部できてから早く、小さく出せる状態になってから
リリース後保守契約・追加見積次のスプリント月額内で直り続ける
終わり方検収継続顧客が自分で直せるようになる

なお、アジャイルの源流である Scrum は、1986年の竹内弘高・野中郁次郎による Harvard Business Review 論文 “The New New Product Development Game”(ホンダ・キヤノン・富士ゼロックスの製品開発分析)にさかのぼります。もともと日本の製造業の考え方です。 ラチェット方式が現場の工具から名前を取っているのは、その系譜に連なります。

Flow Coding との関係

競合しません。階層が違います。Flow Coding は当社が内製している「システムを作るシステム」=製造ラインです。ラチェット方式は、そこで作ったものをいつ・誰の判断で現場に出すかを決める規律です。

Flow Coding とラチェット方式の違い
観点Flow Codingラチェット方式
何かシステムを作るシステム(製造ライン)出し方の規律(顧客との約束)
答える問いどう作るか(HOW)いつ出すか・誰が決めるか(WHEN / WHO)
中身要件定義パイプライン → 設計書パイプライン → Phase別実装指示書パイプライン → AI駆動実装層 → 多層レビュー/監査4つの価値・8つの原則
見せる相手「速さと品質の根拠」を知りたい人「うちの現場が壊れないか」を心配している人

Flow Coding が「作り直しを無料にする仕組み」、ラチェット方式が「無料になったからできる出し方」です。原則2(作り直しに費用はかからない)は願望ではなく、要件変更が設計書から指示書、コードまで一気に再生成される Flow Coding の実装があって成立します。道具でたとえるなら、Flow Coding がラチェットレンチという道具、ラチェット方式がその道具での締め方にあたります。

建設業の方へ ── ボルトを締め増していく

ラチェットで締めるのはボルトです。鉄骨建方の工程は、そのまま私たちの原則になっています。

鉄骨建方の工程とラチェット方式の対応
鉄骨建方ラチェット方式
仮ボルト(中ボルト)で仮締めする担当の方と一緒に、まず組み上げる
建物のゆがみを修正する現場に出す前に、歪みを直しきる(原則1)
高力ボルトに差し替え、規定トルクで本締めする「これなら出せる」で現場に出す
一度に強く締めこむと、接合部に遊びがなくなり、他の未施工箇所にずれや歪みが生じる。だから一次締めと二次締めに分ける一度に全部を替えない。1機能ずつ出す(原則5)

ボルトを締め増していくのと同じです。仮締めして、歪みを直して、本締めする。

一度に強く締めると他が歪むので、1機能ずつ。

締めるほど本締めに近づきますが、締め終わりはありません。

締めるほど、本締めに近づきます。だが、締め終わりはありません。使われている限り、まだ締めるところがあります。

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